岩見研究室の研究紹介です。
岩見研究室ではメタサーフェスによる光制御で次世代のデバイスを開発しています。
メタサーフェスとは、サブ波長構造を平面的に配列することで、透過光や反射光の位相を制御する平面メタマテリアルです。自然界の物質にはない屈折率分布を再現できるため、従来の光学素子と比べて薄型化、多機能化が実現できます。岩見研究室では、メタサーフェスをレンズに応用したメタレンズやホログラフィなどの新規開発、性能向上に取り組んでいます。

岩見研究室で製作したメタサーフェスの電子顕微鏡画像
波長多重方式によるフルカラー
メタサーフェスホログラムの開発
光の波面を記録・再生する技術であるホログラフィ(注1)は、裸眼で3次元映像を観察できるため、究極の立体ディスプレイとも呼ばれ注目されています。このホログラフィは各画素を通過した光の干渉(注2)を利用して像を投影しており、投影像の精細さや観察可能角度は、ホログラムの画素の密度に大きく左右されます。そのため、広い角度から観察可能な高精細画像を投影するためには、画素の間隔が1μm以下の、超高密度の表示用デバイスが必要となります。そこで、光の波長以下の単位構造であるメタアトムを非常に高密度(数百ナノメートル程度)に配列したメタサーフェスを用いて、高画質な動画の投影を目指す「メタサーフェスホログラム」の研究が多く行われています。
メタサーフェスホログラムの大きな課題の1つが「フルカラー化が難しい」という点です。投影像をフルカラー化するためには、最低でも3色(青・緑・赤)の光を制御する必要があります。先行研究においては、「各色専用のホログラムを製作し、投影像を重ね合わせる」「それぞれの色の光に異なる偏光状態(注3)を設定し、投影を行う」といった手法が用いられていました。しかし、これらの方法には、構造の肥大化や投影効率の低下を引き起こすといった問題がありました。そこで本研究では、「1つのメタサーフェスを用いた、入射光の偏光状態を限定しない手法でのフルカラー投影」を目指しました(図1)。
図1のようなフルカラー投影を実現するためには、「各色の光を独立して制御できる構造の発見」と「構造の誤差によって生じる余分な投影像(クロストーク像)の除去」を達成する必要がありました。本研究では2万種を超えるメタアトムの解析や、光の伝搬に関する式に関する分析を重ねることでこれらを実現し、フルカラー動画の投影に成功しました(図2)。

図1 左:本研究における投影手法の概要、右:得られた投影像の一部(※)
実際に得られた動画が公開されています(Supplementary Material Visualization 1, Visualization 2)。
注1)ホログラフィ
光の波面を記録したり再生したりすることのできる技術。眼鏡などを必要とせず立体像を観測でき、究極の立体ディスプレイともいわれる。光波面が記録された媒体をホログラムと呼ぶ。
注2) 干渉
複数の光の波が互いに影響しあい、新しい光が生成される現象。ホログラフィはこの干渉を意図的に引き起こすことで、立体像を観察できる光を生成する。
注3)偏光状態
光の三大要素の一つで、光波の振動方向のこと。直線偏光や円偏光といった状態が存在し、「直交する偏光状態は、それぞれ独立して制御可能である」という重要な性質を持つ。
原子時計用ガスセルの小型化のための
多機能メタサーフェス
原子時計とは原子固有の遷移周波数を基準に安定化した発振器であり、安定かつ正確な周波数を生み出します。デバイス同士が通信するには互いに同じ時刻を共有している必要があり、その基準となる時刻生成を原子時計が担っています。近年、原子時計を小型化し、スマートフォンなどに搭載することで、安定した時刻同期システムを目指す取り組みが進んでいます。
原子時計の小型化を阻む大きな問題は、ガスを封入するガスセルという部分の大きさにあります。本研究では、メタサーフェスを組み込んだ反射型のガスセルを提案しています(図2左)。メタサーフェスは、光を曲げるプリズム、ビームのコリメーションを担うレンズ、偏光状態を変換する1/4波長版の機能を持っており、従来よりも光学素子の厚みを低減しています。製作したガスセルは1.05 mmの高さに抑えられており(図2右)、原子時計パッケージの小型化に大きく貢献する技術となります。

図2 左:メタサーフェスとガスセルの概要、右:製作したガスセル
トップハットビームシェイパー
メタサーフェス
腹腔内の腫瘍発見には,IndocyanineGreen(ICG)蛍光法が使われています。ICGは近赤外蛍光色素であり、腹腔に滞留させ一定強度以上で赤外照射すると腫瘍部で健常部より強い蛍光を発するという性質を利用したものです。一般に放射線治療を受けた患部周囲では組織の炎症などにより遺残腫瘍の有無の診断が困難とされます。また狭所部へのICG蛍光法が可能な同軸内視鏡光源は、強度分布が一般的にガウシアン形状となり中央に局在するため、腫瘍部から発する蛍光強度の有意差を明確化することが困難でした。そこで注目されているのがトップハットビームです。これは広範囲で均一な強度分布を持つビームであり、照射範囲内のどの位置に存在する腫瘍でも高精度に発見することができます(図4左)。そこで本研究ではガウシアンビームをトップハットビームに変換するメタサーフェスを製作します(図4右)。

図4 左:ガウシアンビームとトップハットビーム、右:本研究のメタサーフェスの概要
図5はメタサーフェスの評価結果を表しています。図5左はビームプロファイラで取得した整形後の光強度分布です。高効率かつ均一性の高いトップハット型光強度分布を得ることに成功しました。さらに、病理診断等に使用される蛍光色素ICGによる文字の識別が可能な傾向を確認することができました(図5右)。

図5 左:ビーム整形後の光強度分布、右:ICG蛍光観察像
偏光分離メタレンズの製作と形状による影響
近年自動運転や、顔認識システムなどにおいて高度な光情報の取得が求められています。その例として光の偏光間の反射率の違いを利用した技術が挙げられます。偏光とは光が特定の方向に規則正しく振動している状態を示しています。偏光には様々な種類があり、例としてx軸方向に平行な直線偏光のx偏光、同様にy偏光が存在します。この偏光を利用したイメージング技術である偏光イメージングは、複数の偏光成分で撮影された画像間の差に依存し、目に見えない情報を可視化するために使用されてきました。例として車両の検出などのセンシング技術が挙げられます。
そこで本研究では偏光イメージングに用いるためのメタレンズの製作と評価を行いました(図6左)。メタレンズとはメタサーフェスの一種であり、レンズとして集光性能を持ちます。メタサーフェスは、メタ原子の構造による複屈折を利用して、放出光の偏光状態を制御することができます。そのためメタレンズは偏光状態の像を異なる場所に集光・結像させることができます。従来の偏光板とは異なり、直交する偏光成分を吸収するのではなく分離するため、光の利用効率が向上するといった利点が存在します。 さらに高度な製造プロセスで製造された高性能イメージセンサーは、既存のレンズをメタレンズに置き換えることで、そのまま使用することが可能です。そして実際に複数の製作を行い、光学性能の評価を行いました。また製作した偏光分離メタレンズの形状による光学性能の影響の調査を行うことも成功しました(図6右)。

図5 左:偏光分離メタレンズの概略図、右:製作したメタレンズの顕微鏡写真
遠赤外線で利用できる偏光分離メタレンズ
遠赤外線は温度検知などに利用されているが,屈折レンズではゲルマニウムレンズを利用しており,高価となってしまいます.またマイクロボロメータセンサの場合は,MEMS構造のため,偏光分離が難しいといった課題が存在します.
本研究では,遠赤外線において,シリコンで直線偏光分離メタレンズの製作を行いました.市販のカメラであるマイクロボロメータセンサを搭載したカメラで撮影を行ったところ,直交する偏光において像が消失することから,偏光分離メタレンズの製作に成功したといえます.